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猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症 Feline gastrointestinal eosinophilic sclerosing fibroplasia (FGESF)

【ペットの病気】2014.11.17

猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症の一例

A case of feline gastrointestinal eosinophilic sclerosing fibroplasia

 

第35回動物臨床医学会年次大会プロシーディング,No.2,391-392(2014)

 

要約 

 1か月前から慢性の嘔吐があるとの主訴で来院した5歳齢の猫の開腹手術を行ったところ、胃幽門部に直径3cmの腫瘤が存在した。また近くの大網のリンパ節も腫大していた。胃腫瘤の全摘出は行わず、全層材料と腫大したリンパ節を採取し病理組織学的検査を行った結果、猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症(Feline gastrointestinal eosinophilic sclerosing fibroplasia)と診断された。その臨床経過と治療経過を報告する。

 

はじめに

 猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症:Feline gastrointestinal eosinophilic sclerosing fibroplasia (FGESF)は最近Craigらによって提唱された名称である[1]。病変は主に消化管と周辺のリンパ節に限局し、結節性、非腫瘍性で高密度に線維増殖が見られ好酸球と肥満細胞が浸潤する。多くは中心部が壊死し潰瘍化した壁内腫瘤であり、組織学的にはFGESF病変は多数の大型線維芽細胞によって索状に配列した高密度で硬化した膠原線維が分岐している特徴を示す[1]。FGESFの病変部は好酸球と肥満細胞が主体で、少数の好中球やリンパ球、形質細胞を含む混合炎症性細胞の集団を形成する[1]。

 FGESFの病変は腫瘍病変と似ている。これらの病変部での非常に硬い索状の膠原線維層は類骨にも類似していて骨肉腫と誤診されるかもしれない[1,2]。また多数の肥満細胞の存在は硬化した肥満細胞腫と診断されてしまうかもしれない[1]。

 FGESFの56%(14/25)で細胞内細菌が見つかり[1]、また別の研究ではメチシリン耐性ブドウ球菌が最も多く検出されたとの報告もある[3]。本症の病因は知られていないが、これらの細菌感染や消化管内の移動性の異物による損傷、遺伝的な好酸球の失調、ヘルペスウイルスの感染や食品性過敏症などが示唆されている[1,4]。

 これまでの所FGESFの発生報告は少なく、今回その臨床経過と治療経過を報告する。

 

症例

雑種猫、雄(未去勢)、5歳、体重4.9kg。1か月前から慢性の嘔吐があるとの事で来院してきた。

各種検査所見:腹部触診にて上腹部に3~4㎝の球状の腫瘤を触知した。他の一般状態は良好であった。腹部超音波検査では胃に幅1.5㎝の高エコー・低エコー性が入り混じり、漿膜面が不規則な腫瘤が認められた。また直径6㎜に腫大したリンパ節も見られた。血液生化学検査ではRBCとPCVの軽度上昇、Platの軽度低下、好酸球数の上昇(2668/μℓ,WBC:11600/μℓ)が見られた。またTP値の低下(5.1g/dℓ)とGlu値の上昇(202mg/dℓ)が見られた。FeLV抗原・FIV抗体検査は共に陰性であった。

 治療および経過1:第4病日に開腹手術を実施した。術前に行った胸部・腹部X線検査では異常は見られなかった。胃幽門部に直径3cmの硬い結節状の腫瘤が見られた。腫瘤を中心に胃壁は固く肥厚しており漿膜面は充血していた。また腫瘤近くの大網のリンパ節もやや腫大していた。他の消化管及び臓器に異常は認められなかった。幽門部腫瘤の全摘出は行わず全層材料と腫大したリンパ節を採取し閉腹した。なお腫瘤にメスで切り込む際、軟骨を切る様な感触があった。

 病理組織検査所見:胃粘膜面では潰瘍が認められ、胃粘膜固有の構造は消失していた。潰瘍下から粘膜下組織深部、筋層表層でも本来の構造は消失し、び漫性に細胞増殖や膠原線維の増生が認められた。潰瘍直下の胃粘膜面では、比較的成熟した膠原線維が索状に配列しつつ豊富に増生し、線維索間には線維芽細胞が豊富に増生していた。索状に配列する膠原繊維はしばしば均質な好酸性を呈し、硝子化していた。線維索間では腫大した核を有する線維芽細胞の増生に混じって、多数の好酸球やマクロファージが浸潤していた(図1)。胃中層部は表層部に比較して線維芽細胞の増生が顕著に観察された。膠原線維索は繊細で、好酸球の浸潤も軽度であった。胃の深層部では、表層のような成熟した膠原線維が索構造を形成する像は認められず、線維芽細胞および繊細な膠原線維が混在しつつ豊富に増生し炎症細胞浸潤は乏しかった。リンパ節は皮質を中心にリンパ濾胞が腫大し、腫大した濾胞では胚中心の拡大を伴っていた。リンパ節辺縁部では好酸球が多数浸潤していた。一部のリンパ洞では線維芽細胞と膠原線維の軽度造成が認められた(図2)。本例の胃やリンパ節では明らかな細菌感染は確認されなかった。またいずれの組織にも異型細胞の増殖像は認められなかった。以上により本症例をFGESFと診断した。

 治療および経過2:第11病日よりメチルプレドニゾロン酢酸エステル(8㎎/head IM 2週間毎)とセフォベシンナトリウム(コンべニア®,8㎎/kg,SC,2週間毎)の投与を開始した。また体重減少が推測されるため[1]、高栄養療法食(a/d; Hill’s)の給餌を指示した。

 第33病日、食欲もあり嘔吐も認められなかった。上腹部に直径3㎝の結節性の腫瘤が触知でき、初診時と変化はなかった。腹部超音波検査でも腫瘤に著変は認められなかった。血液生化学検査ではRBC(12.24×106/μℓ)、Hb(19.0g/dℓ)、PCV(61.9%)の上昇が見られた。また好酸球数は387/μℓ(WBC:4300/μℓ)だった。その他の項目に異常は認められなかった。

 第74病日、食欲もあり嘔吐も見られず、便秘が認められたもののQOLは維持していた。腹部触診にて腫瘤の形状に変化は認められず、一般状態は良好で体重の減少もなかった。腹部X線検査では胃付近に不透過性の亢進した領域が認められ、結腸に糞塊が多く見られた。

 第93病日、一般状態に変化は認められなかった。腹部超音波検査では腫瘤に著変は見られなかった。血液生化学検査ではRBC(14.13×106/μℓ)、Hb(21.6g/dℓ)、PCV(68.4%)の上昇とWBC(3200/μℓ)の減少が見られた。好酸球数は320/μℓだった。またAlb(4.2g/dℓ)の軽度上昇も認められた。

 本稿執筆時(240病日)、食欲もあり嘔吐も見られず胃幽門部の腫瘤に変化は認められていない。

 

考察

 本症例は1か月前から慢性の嘔吐が主訴で来院した5歳齢の未去勢雄猫で、末梢血中の好酸球の増加が見られた。開腹した所、胃幽門部に3㎝の硬い結節性の腫瘤が形成され、付近のリンパ節もやや腫大していた。病理組織学的検査において胃の腫瘤は猫消化管好酸球性硬化性線維増殖と呼ばれる病変に相当し、リンパ節で認められたリンパ節炎も胃の病変に関連している可能性が示唆された。本症例の胃やリンパ節では明らかな細菌感染は確認されなかったが、Craig らの報告では猫25 例のうち14例で細菌群が微小膿瘍や壊死の中心部に確認され、FGESFの原因が細菌感染による可能性が高いことが示されている[1]。

 胃幽門部に形成された腫瘤は完全切除が不可能と判断し全層材料の採取を行った。Craig らの報告では猫25 例のうち8例が胃に腫瘤が認められ、そこよりも遠位に病変部があった場合よりも外科的に切除する事は困難でしばしば摘出不可能と判断された[1]。

 抗生剤の投与と腫瘤の摘出手術、または手術単独の猫の生存期間は、手術とPrednisoneの投与を行った猫に比べ優位に短かったとの報告から[1]、2週間毎にメチルプレドニゾロン酢酸エステル(8㎎/head IM)を投与した。Craig らは抗生剤の治療には反応しないと結論付けているがセフォベシンナトリウムも併用した[1]。他にモサプリドクエン酸塩の内服なども勧めたが飼い主は投薬不可能との事だった。

 本症例は末梢血中の好酸球の増加が見られた(2668/μℓ,WBC:11600/μℓ)。Craig らは血液検査を実施した12症例の内7症例で好酸球の増加が認められたと報告している[1]。術後メチルプレドニゾロン酢酸エステルの投与を開始し、第33病日と93病日に血液検査を行ったところ、それぞれ387/μℓ(WBC:4300/μℓ)と320/μℓ(WBC:3200/μℓ)と好酸球数は正常値を維持していた。

 本稿執筆時(240病日)において胃幽門部の腫瘤に変化はなく、また消化管の他の部位や腹腔内臓器においても異常は認められていない。FGESFはしばしば消化管の異なる場所に再発したり、リンパ節以外の周辺の臓器(例えば肝臓や膵臓)でも同様の病変を形成したりする事が報告されている[1,5]。また嘔吐や食欲不振、体重減少も認められず比較的良好なQOLを維持している。

今回腫瘤の摘出には至らなかったが良好な経過が得られた。これは早期にメチルプレドニゾロン酢酸エステルなどの投与を開始できたからかも知れない。

 猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症の発生報告は少なく、本症の病態や治療方法について今後さらなる検討が必要である。

参考文献

1)Craig LE, Hardam EE, Hertzke DM, Flatland B,Rohrbach BW, Moore RR : Feline gastrointestinal eosinophilic sclerosing fibroplasia, Vet Pathol, 46,63-70 (2009)

2)Stimson EL, Cook WT, Smith MM, Forrester SD,Moon ML, Saunders GK: Extraskeletal osteosarcoma in the duodenum of a cat. J Am Anim Hosp Assoc 36:332-336(2000)

3)Ozaki K, Yamagami T, Nomura K, Haritani M, Tsutsumi Y, Narama I : Abscess-forming inflammatory granulation tissue with Gram-positive cocci and prominent eosinophil infiltration in cats : possible infection of methicillin-resistant Staphylococcus, Vet Pathol, 40, 283-287 (2003)

4) Kazushi AZUMA, Takehito MORITA, Kei KOIZUMI, Kazuyuki HUKATSU, Akinori SHIMADA: Feline Gastrointestinal Eosinophilic Sclerosing Fibroplasiaの1例, 日獣会誌,65,879-882(2012)

5)Andrea Weissman,Dominique Penninck,Cynthia Webster,Silke Hecht,John Keating,Linden E Craig: Ultrasonographic and clinicopathological features of feline gastrointestinal eosinophilic sclerosing fibroplasia in four cats, Journal of Feline Medicine and Surgery,15 148-154(2012)

 

 

猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症-1図1

【胃表層部】 索状に配列する膠原繊維はしばしば均質な好酸性を呈し、硝子化していた。線維索間では腫大した核を有する線維芽細胞の増生に混じって、多数の好酸球やマクロファージが浸潤していた(矢印)。

 

 

 

 

 

猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症-2図2

【リンパ節】好酸球の浸潤やリンパ濾胞の腫大が観察され、加えて被膜や小柱と連続しつつ、線維芽細胞や比較的成熟した膠原線維の増生が認められた(↔)

 

 

 

 

 

 

注意

この症例報告は第35回動物臨床医学会年次大会で発表したものを加筆したものです。

本稿をお読みの際は必ず第35回動物臨床医学会年次大会プロシーディングNO.2,391-392(2014)を参照して下さい。

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